2025年大阪万博の採算性分析
投稿日: 2025-06-15
カテゴリ: note

ChatGPT 4o と Gemini 2.5 Flash に聞いた。判断が難しい。
- 直接的な収支だけでなく、間接的な経済波及効果をどこまで含めるか
- 公費負担の回収可能性をどこまで広く、長期で考えるか
- 公的投資による人件費支出は経済効果にもカウントされ、さらに税収としても返ってくる
- これを契機にインフラが強化され 、将来にわたる資産として残されることで、長期的な利益になる
- 万博では建物は残らないが、跡地に IR 統合型リゾートを計画しており、沿線の拡張など万博で整備されたインフラが今後の大規模開発に継承される
- いっぽうで万博への支出が、他の活動への支出を減らしているかもしれない「消費のスライド」という概念が入っていない可能性
- などなど考えると、完璧な費用対効果分析は困難だが、可能な限り透明な試算根拠を出すことが望ましい。が、そのコストをかけるべきか
自分だったらどんな意思決定をするか。
何かしら先鋭的で象徴的で尖っていて、強いインパクトを与えるものであれば、結局人は集まるのでやったほうがいい。今回も大屋根リングが果たす役割が大きいし、個人的には今でも国立競技場はザハ・ハディド案にすべきだったと思う。M&A と同じかもしれない。
ChatGPT 4o Deep Research
2025年大阪・関西万博の採算性分析
大阪・関西万博2025の会場風景。多くの来場者でにぎわう様子(写真は会場内の木造大屋根構造)。2025年4月に開幕した大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)は、大阪市夢洲を会場として半年間開催される大規模イベントである。開催前から建設費や運営費の増大が指摘され、その採算性(収支の黒字化可能性)に注目が集まっている 。以下では ①直接的な収支, ②間接的な経済効果, ③公費負担 の観点から、一次資料や公的機関の試算に基づき大阪・関西万博の採算性を総合的に分析する。
直接的な収支分析(収入・支出の見通し)
万博の収入源は主に入場料収入(チケット代)とスポンサー協賛金、および会場内での物販・飲食等の収益(ライセンス料や手数料)である。一方、支出は会場建設費(パビリオンや大型構造物の建設費)や運営費(人件費・管理費・宣伝費など)、さらに会期中の維持管理費・警備費などに及ぶ。まず万博協会(主催者)の直截的な収支を試算すると、以下のような構造になる。
- 会場建設費:約2,350億円(大型屋根構造や貸出パビリオン等の整備) 。これは当初見込み1,250億円から大幅に増加し、資材高騰などで約2倍近い2,350億円に膨らんだ 。
- その他の建設関連費:各国・企業が独自に建設するパビリオン等に約1,200億円(参加者側負担) 。
- 運営費(会期中の運営経費):総額約1,160億円 。これは万博協会が負担する人件費・会場運営費・広告費等であり、入場券収入やグッズ売上で賄う計画となっている 。加えて、会場内の安全対策費に約250億円 、各パビリオンの運営費等は参加国・企業が約2,000億円負担する 。
- 基盤整備費:会場に直結する地下鉄中央線の延伸工事や道路拡幅等に約550億円 。これらは万博開催に直接必要なインフラ整備費として計上されている(※この他に国や自治体による広域インフラ整備として総額約8,390億円の関連事業が進められているが、これらは万博のためだけの支出ではないため万博費用には含めない )。
以上を合計すると、大阪・関西万博の開催に直接関係する費用総額は約7,600億円に上る 。これは日本国民一人あたり6,000円の負担額に相当する規模である 。対して、主催者である博覧会協会が見込むチケット・グッズ等の売上収入計画は約1,160億円にとどまり 、すべてを自力で賄うことは当初から困難とされてきた 。したがって採算性の議論では、**費用総額7,600億円すべてを回収できるかではなく、運営費1,160億円を入場券やグッズ収入でどこまでカバーできるか(赤字を出さずに済むか)**が焦点となっている 。
黒字化の可能性について見ると、万博協会は当初、チケット収入の基準として有料入場者2,300万人(総来場者数2,820万人)を目標に掲げ、収支均衡ライン(損益分岐点)をチケット購入者1,800万人と試算していた 。吉村大阪府知事も「1,800万人が収支分岐点」と明言しており、この人数を下回れば赤字、上回れば黒字になる目安である 。入場券は大人1日券7,500円(税込)を基準に各種割引券や招待券も発行されており、実際の平均単価は約5,880円との分析もある 。仮に平均単価6,000円弱として1,800万人分のチケット収入を計算すると、約1,100億円強となり、グッズ・飲食マージン収入と合わせて1,160億円の運営費をほぼカバーできる計算です 。実際、万博開幕後のチケット販売は堅調で、開幕約2か月時点の6月上旬までに約1,344万枚を売り上げており、週あたり50万枚ペースが維持されています。このペースなら8月上旬には損益分岐点の1,840万枚に到達する見通しで、黒字化達成が十分視野に入ると報じられています 。ただし会期後半の集客動向やグッズ収入次第では最終的な収支が変動し得るほか、万博協会は4月末時点で運営費の約78.7%(913億円)を既に執行済みであり 、万一赤字が出た場合は国・大阪府市・経済界で補填方法を協議する必要が生じるとされています 。総じて、万博協会の直営勘定(運営費)については来場者数次第で収支均衡~黒字化の可能性が高まりつつあり 、少なくとも大赤字で終わるリスクは開幕前に懸念されたほど高くないといえます。一方、会場建設費など巨額の初期投資は入場料では回収不能であり 、これらは主に公費や民間拠出金でまかなわれる前提となっています(後述)。
間接的な経済効果分析(観光消費・波及効果など)
直接収支の採算性だけでは万博の経済的妥当性を評価しきれないため、万博開催による間接的・広義の経済効果も検討します。万博には国内外から多数の観客が訪れ、訪日外国人観光客の誘致効果や、会場周辺・関西圏での宿泊・飲食・交通機関などへの消費拡大が期待されています。また、建設・運営に伴う雇用創出やビジネス機会の増加、さらには大阪の国際的認知度向上による地域活性化と将来的な投資誘発効果も見込まれています 。大阪府試算では、万博開催による大阪府民1人あたりの経済効果は約24万円にもなるとされ 、関西全体の景気押し上げへの寄与が強調されています。
経済産業省が実施した最新の産業連関分析によると、大阪・関西万博の経済波及効果は総額約2.9兆円(2018年試算の2.5兆円から上方修正)に達すると見込まれています 。内訳を見ると、建設投資による効果が約8,570億円、運営・イベント関連消費による効果が約6,808億円、来場者の観光消費による効果が約1兆3,777億円と算出されています 。すなわち、万博開催準備から会期中にかけて発生する様々な需要が生み出す生産誘発額の合計が3兆円近くに上るということです 。この2.9兆円という波及効果額は、2005年日本国際博覧会(愛知万博)の実績値約2.1兆円を大きく上回ります 。背景には、関西2府4県の人口(約2,000万人)が愛知万博当時の東海4県より多いこと、近年のインバウンド(訪日外国人)増加による観光消費の拡大が見込まれることなどがあります 。試算上の想定来場者数2,820万人には外国人観光客も含まれており、その消費支出や滞在による付加効果も織り込まれています 。実際、万博開催期間中には関西のホテルや飲食店、交通機関への需要増が確実視されており、大阪への国内外観光客誘致の起爆剤となることが期待されています 。
大阪・関西万博会場内の各国パビリオン前の様子(写真はオーストリア館)。多くの来場者が訪れ、飲食やショッピングを楽しんでいる。万博来場者による現地での消費(飲食・土産購入等)は1人あたり平均3,000円程度とも試算され 、主催者への直接収入とは別に周辺産業に大きな売上をもたらす。例えば上記2.9兆円の経済効果の中で来場者消費による生産誘発額は約1.38兆円と全体の約半分を占めており 、宿泊・交通・小売・飲食など幅広い業界への波及が見込まれます。また建設投資8,570億円規模の効果には、会場建設や関連インフラ工事に伴う建設業・製造業への需要波及、雇用・所得の増加が含まれます 。万博関連の投資・消費の多くは開催地である大阪府内に集中するため、その付加価値誘発額は約1.6兆円(大阪府の年間GRPの4%相当)に達し 、大阪府市にとって費用対効果の高いプロジェクトと位置付けられます。一方で、大阪・関西以外の地域への経済的波及は限定的とも見られ 、巨額の税金投入に対する国民全体の理解を得るには効果の全国波及や長期的便益についても示していく必要があります 。
万博の地域活性化効果は経済波及額だけに留まりません。万博開催を機に大阪・関西への注目度が高まることで、将来的な観光誘客の増加や企業進出の促進、地元産業のイノベーション創出が期待されます 。また万博のテーマがSDGsや未来社会のデザインであることから、関西発の環境・医療・科学技術分野の情報発信や国際協力の強化といった無形のレガシー効果も見込まれます 。さらに万博終了後の会場跡地利用については、夢洲にて統合型リゾート(IR)施設の開業計画が進行中であり(2029~2030年頃開業予定、年間2,000万人の来訪者見込み )、万博で整備されたインフラが今後の大規模開発や地域振興に継承される計画です。このように、万博は開催期間中の一時的な経済効果のみならず、開催後の地域経済の発展につながる投資誘発効果や国際都市としての大阪の地位向上といった長期的メリットを生む可能性があります 。
もっとも、経済効果の評価にあたって注意すべき点も指摘されています。経済波及効果2.9兆円という数字はあくまで生産額ベースのフロー効果であり 、万博開催のために投じた費用の分だけ大きく算出される側面があります 。万博会場は閉幕後に原則さら地に戻され資本ストックが残らない特殊性もあるため、短期的・直接的な効果だけでなく将来の発展につながるかという**ワイズスペンディング(賢い支出)**の視点で検証を深める必要があると専門家は指摘しています 。言い換えれば、投入された公的資金に見合う持続的な利益(例えば税収増や地域の恒久的発展)がどれだけ得られるかを注視することが重要です。
公費負担分析(国・大阪府・市・民間の費用分担と回収可能性)
最後に、万博開催に伴う費用負担の構造と、公的支出の回収可能性について評価します。大阪・関西万博の巨額費用は主催者の自己収入だけでなく、国や自治体、経済界からの拠出によって支えられています。主な費用負担の内訳は以下のとおりです 。
- 国(中央政府):約1,750億円を負担。 内訳は会場建設費の1/3(約783億円)に加え、政府出展の日本館建設費約360億円、途上国パビリオン支援費約240億円、会場内の警備費約199億円、全国的なPR費用約38億円、招致活動費約27億円等である 。今後、開幕前イベント等の追加費用も見込まれる。
- 大阪府:大阪市と合わせ約1,400億円を負担 。会場建設費の1/3(783億円)のうち約半分程度を府が拠出すると想定される(残り半分を市が負担)。府はこの他、夢洲へのアクセス強化などインフラ整備に関わる費用や、大阪パビリオン出展支援等の経費も負担する。
- 大阪市:大阪府と同じく約1,400億円の中で約783億円(会場建設費1/3の一部)を負担するとみられる 。市は特に地下鉄中央線の夢洲延伸事業など都市インフラ整備費を主体的に担っており(関連インフラ整備費全体では国費含め8,390億円規模 )、これらの整備による将来的な資産活用に期待がかかる。
- 民間企業(経済界):約1,350億円を拠出 。会場建設費の1/3(783億円)相当を関西経済界(企業団体)が負担するほか、万博協賛企業として多数の企業が資金や物資提供を行っている。協賛金は万博協会の運営財源にも充当され、パビリオン建設・運営を支援するスポンサーも存在する。
- その他の出展者等:海外の参加国や企業によるパビリオン建設費・運営費として総額1,970億円が投入されている 。これらは日本の公費ではなく各参加者が負担したもので、経済効果試算には含まれるが日本側の採算には直接影響しない。
以上のように、大阪・関西万博の費用は国・地元自治体・民間がほぼ3等分して会場整備費を負担し、加えて万博協会の運営費は主催者収入(チケット等)でまかなうという枠組みになっています 。公費(税金)投入額は約3,000億円規模と見積もられ 、岸田首相も国会で「万博の全体像を透明性をもって示す」と費用精査に言及するなど 、その妥当性が議論されています。
では、この公的支出はどの程度回収可能なのでしょうか。結論から言えば、直接的に元が取れるわけではないが、間接的な形で一定の回収効果が期待できるという評価になります。まず会場建設費2,350億円については、博覧会閉幕後に施設を撤去して更地化する決まりのため直接的な投資回収はありません。しかし、跡地利用(例えば夢洲IR計画)によって民間投資を呼び込み将来的な税収増に繋げることができます。また、インフラ整備に投じた予算も万博後に地域住民や企業が長期的に活用する交通・物流基盤として残り、地域経済の生産性向上や企業立地促進という形でリターンをもたらすでしょう。
万博開催中の運営費1,160億円に関しては、前述のとおり入場料やスポンサー収入で自己完結する見通しが立ちつつあります 。仮に収支均衡ラインを超えて黒字が出た場合、その剰余金は主催者である博覧会協会の今後の事業や開催地への還元に充てられる可能性があります(詳細な扱いは未定)。したがって、運営費分について国や自治体が追加負担を強いられる事態は回避できる公算が大きいです。一方、国・大阪府市が拠出した分の費用(少なくとも3,000億円規模)は直接的に返金されるものではありませんが、波及効果を通じて間接的に回収されると考えられます 。経済効果2.9兆円のうちには企業の収益増や労働者の所得増が含まれ、それに伴い法人税・所得税など税収の増加が見込まれます。また来場者消費が拡大すれば消費税収も増えるため、国と地方に入る税金で数千億円規模のフィードバックが期待できます。例えば粗付加価値ベースで1.6兆円の創出効果 は、それ自体が企業利益や給与となり一定割合が税収となることを意味します。正確な回収率は試算が難しいものの、国費投入分に匹敵する額が税収や地域経済の活性化によって回収される可能性があります。
さらに長期的には、万博が契機となって大阪の都市ブランド価値が向上し観光客やビジネスの継続的誘致が実現すれば、継続的な経済効果と財政へのリターンが得られます 。先述のIR施設開業による年間20万人規模の雇用・来訪者創出や、関西への投資拡大による地域税収の増加など、万博後も効果が波及すれば公的投資の元を取ることも十分可能です。ただし、そのためには万博終了後も見据えた都市計画・産業振興策を着実に進める必要があります。万博投資が「一過性のお祭り」で終われば税金の無駄遣いと批判されかねませんが、将来への布石として活かせれば十分にペイする公共事業と評価されるでしょう 。
結論:採算性評価の総合所見
以上を総合すると、大阪・関西万博の採算性は短期的な収支面と長期的な経済効果の双方から評価する必要があります。直接的な収支に関しては、入場券販売が好調で運営費1,160億円の黒字化達成が射程に入りつつあり、少なくとも万博協会勘定で大幅な赤字を計上するリスクは低下しました 。しかし、会場建設やインフラ整備に投じた巨額の初期費用は入場料収入では回収できず、公費・民間拠出に依存する構造は当初計画から変わりません 。したがって、「イベント単体の採算」という観点では黒字化が見込まれる一方、公共事業として投下された費用の費用対効果については、2.9兆円にのぼる経済波及効果 や地域活性化の波及効果を勘案して判断すべきです。経済効果と費用は表裏一体であり、費用をかけた分だけ効果も大きくなる側面があるものの 、大阪府内だけで付加価値1.6兆円・税収増などのリターン を生む点を踏まえれば、一定の採算性(広義の意味で投資に見合う価値)は認められると言えるでしょう。
最終的には、大阪・関西万博は短期的収支の黒字化だけでなく、中長期的に地域にもたらす経済的・社会的便益まで含めて評価すべきです 。直接の金銭収支だけを見れば巨額の公費投入が「割に合わない」ようにも見えますが、そこで創出された新たな需要・交流・技術革新が将来の経済成長や地域発展につながるならば、投資に値する成果と考えられます。大阪・関西万博が日本経済再生の起爆剤となり得るか 、今後その成果を長期的視点で検証しつつ、得られたレガシーを最大限活用していくことが肝要です。
参考資料:
- 【6】日本総研 若林厚仁「大阪・関西万博の費用対効果を考える」(Research Focus No.2024-066, 2025年3月)
- 【14】朝日新聞「万博費用、全体像判明 国費負担1647億円、関連インフラ整備費も」(2023年12月時点の報道)
- 【18】共同通信「万博、黒字確保に現実味 入場券販売、週50万枚続く」(沖縄タイムス転載, 2024年5月24日)
- 【21】Re-urbanizationブログ「大阪・関西万博は黒字になるのか?来場者数と収支ラインを徹底試算」(2025年5月)
- 【27】経済産業省/内閣官房「大阪・関西万博経済波及効果 再試算結果について」(2024年2月公表)
- その他:大阪府・市公表資料、博覧会協会発表、APIR(アジア太平洋研究所)試算等 (本文中に随時引用)
Google Gemini 2.5 Flash Deep Research
大阪・関西万博の採算性評価:直接的・間接的側面と公費の役割
1. はじめに:万博の経済的意義と評価の視点
2025年4月13日から10月13日までの184日間、大阪夢洲にて「2025年日本国際博覧会(Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan)」が開催されます 1。本万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、約150か国・25機関の参加を予定し、目標来場者数は約2,820万人(うち訪日外国人約350万人)と見込まれています 1。この大規模な国際イベントは、単なる祭典に留まらず、「未来社会の実験場」として位置づけられています。再生医療、AI、ロボティクス、スマートシティ技術などの最新技術の展示や実証実験を通じて、日本の技術力を世界にアピールし、国家ブランドの再構築に貢献する役割も期待されています 1。
本レポートでは、大阪・関西万博の採算性を多角的に評価します。具体的には、万博運営の直接的な財務収支(売上と費用)に加えて、より広範な経済・社会・環境への間接的な影響を考察します。特に、多額の公費が投入される公共事業としての側面から、その費用対効果と会計処理の透明性が重要な評価軸となります。本レポートは、まず万博運営の直接的な財務状況を分析し、次に経済・社会・環境への間接的な影響を考察します。その後、公費の活用状況とその会計処理に関する議論を深掘りし、最後にこれらを踏まえた総合的な採算性評価と今後の展望を提示します。
2. 直接的な収益と費用:万博運営の財務構造
万博の直接的な採算性を評価するためには、運営主体である日本国際博覧会協会(以下、協会)の収益と費用の構造を詳細に分析することが不可欠です。
直接的収益の内訳と見込み
協会の運営費収入は、主に以下の項目で構成されています。
- 入場券売上: 想定来場者数2,820万人のうち80%にあたる2,200万人を前提に、969億円の売上が見込まれています 3。これは運営費収入の最も主要な柱です。
- 協賛金収入: 企業・団体からの協賛金として、現時点で827億円(うち契約済・契約手続き中767億円)を見込んでいます 3。この協賛金には、万博運営に必要な施設や物品、サービスの提供による費用節減効果(運営参加協賛:176億円)や資金協賛(75億円)が含まれており、運営費の抑制に大きく寄与しています 3。
- ロイヤリティ収入およびその他収入: 飲食・物販店舗からのロイヤリティ収入で48億円、会場内の施設・設備の利用料などから36億円を見込み、これらを合計したその他収入は191億円とされています 3。
- 受託事業収入: 政府からの受託事業として299億円が見込まれており 4、これには日本館事業(約30億円)、途上国支援(約70億円)、会場内の安全確保(最大199億円程度)が含まれます 3。これらの収入は、万博協会にとっては収入となりますが、国全体で見れば公費の投入であり、最終的な国民負担の一部を構成する点に留意が必要です。
以下の表は、万博運営費の収入計画を当初計画と現状見込みで比較したものです。
表1:万博運営費収入計画(当初計画と現状見込みの比較)
収入項目
当初計画 (2019年12月BIE登録申請書) (億円)
現状見込み (2024年2月運営費資金計画) (億円)
増減額 (億円)
入場券売上
702
969
+267
ロイヤリティ等収入
143
191
+48
その他収入
36
36
0
運営費収入計
881
1,196
+315
協賛収入
-
827
-
受託収入
-
299
-
総収入
881
2,322
+1,441
注: 協賛収入および受託収入は、当初計画には明示的な項目として含まれていないか、内訳が異なるため、増減額は算出していません。運営費収入計は、入場券売上、ロイヤリティ等収入、その他収入の合計です。
直接的費用の内訳と見込み
万博の直接的な費用は、主に会場建設費と運営費に大別されます。
- 会場建設費: 当初計画の1,250億円(2017年9月誘致時)から、基本計画策定時の1,850億円(2020年12月)を経て、最終的には最大2,350億円(2023年10月建設費改訂)へと約1.9倍に膨張しています 3。この増額は、資材価格の高騰や人件費上昇などが背景にあると推測されます。
- 運営費: 当初計画の809億円(2020年公表基本計画書)から、最新の資金計画では1,160億円に増加しており、約1.4倍に膨らんでいます 3。
- 増額要因: 運営費の増額要因としては、人件費等の上昇が121億円、未執行人件費等の影響額が26億円、遠方スタッフの宿泊費が73億円とされ、これら人件費関連で合計220億円の増額が見込まれます 3。会場運営スタッフは1日約10,000人以上必要とされ、人手不足が懸念される中で、宿泊費の上振れなど追加コストが発生している点は、大規模イベント運営における労働力確保の難しさと、それがコストに与える影響の深刻さを示しています 4。さらに、環境変化・計画変更への対応経費として131億円(うち環境変化対応が95億円)が加算されており、予期せぬ事態への対応コストも大きいことが分かります 3。
- 日本政府館、途上国支援、会場安全確保等の費用: これらは博覧会協会にとっては受託事業収入となりますが、国全体で見れば公費による支出であり、日本館事業に約30億円、途上国支援に約70億円、会場内の安全確保に最大199億円程度が見込まれています 3。
以下の表は、主要な直接費用の計画を当初計画と現状見込みで比較したものです。
表2:主要直接費用計画(当初計画と現状見込みの比較)
費用項目
当初計画 (億円)
現状見込み (億円)
増減額 (億円)
会場建設費
1,250
2,350
+1,100
運営費
809
1,160
+351
日本政府館
-
30
-
途上国支援
-
70
-
会場安全確保費用
-
199
-
合計
2,059
3,809
+1,750
注: 日本政府館、途上国支援、会場安全確保費用は、運営費の受託事業収入として計上されているため、協会全体の収支では相殺されます。合計は単純合算であり、重複する概念(例:運営費に含まれる人件費と別途計上される人件費)は考慮していません。
損益分岐点分析に基づく採算性評価
損益分岐点(Break-Even Point, BEP)とは、ある事業において売上高と費用がまったく同じ金額となり、利益がゼロになる売上高または販売数量を指します 11。採算性を評価する上で不可欠な指標であり、通常は「損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率」または「損益分岐点売上高=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}」で算出されます 11。
万博における主要な費用を固定費と変動費に分類すると、以下のようになります。
- 固定費: 売上高の増減に関わらず常に一定に発生する費用です 15。万博の場合、巨額な会場建設費の減価償却費、運営費のうち正社員の人件費、会場の賃借料(土地・建物)、固定的な広告宣伝費、リース料などが主要な固定費として考えられます 15。
- 変動費: 製品・サービスの生産量や売上に応じて比例して増減する費用です 15。万博の場合、入場券販売手数料、飲食・物販の仕入れ原価、来場者数に応じて増減する警備員・清掃員などのパート・アルバイト人件費、イベントごとの外注費、来場者数に応じた水道光熱費の従量課金部分などが該当すると考えられます 15。
博覧会協会の資金計画では、運営費収入1,160億円と運営費支出1,160億円が同額であり、見かけ上は損益分岐点に達しているように見えます 4。しかし、この収入には政府からの受託事業収入299億円や、協賛収入827億円(うち運営費節減効果176億円を含む)が大きく寄与している点に留意が必要です 4。純粋な市場からの収益(入場券売上969億円+ロイヤリティ等収入191億円=1,160億円)だけで運営費1,160億円を賄う計画であり、受託事業収入や協賛金(運営費節減効果分)は、本来であれば利益となるべき部分が運営費の穴埋めに使われている構造です。正確な変動費と固定費の固変分解データが公開されていないため、具体的な限界利益率を算出し、損益分岐点売上高を厳密に試算することは困難です。
この収益構造は、万博運営の大部分が純粋な市場からの収益だけでは賄いきれないことを明確に示唆しています。万博の直接的な収益構造は、市場原理に基づく自立的な採算性よりも、公的支援と企業からの協力に大きく依存していると分析できます。この依存関係は、来場者数が想定を下回ったり、協賛金が集まらなかったりした場合に、運営費を直接的な市場収益で賄うことができず、最終的に公費による追加負担が発生するリスクが高いことを意味します 24。損益分岐点分析の観点からは、変動費率が低い入場券収入だけでは、運営費の大部分を占める固定費をカバーしきれない可能性が高いと推測されます。この公費依存の構造は、万博の財務的な持続可能性に対する根本的な問いを投げかけます。
損益分岐点比率(損益分岐点売上高が実際の売上高に占める割合)や安全余裕率(実際の売上高が損益分岐点売上高をどれだけ上回っているかを示す割合)の観点から見ると、万博の資金計画は、入場券収入とロイヤリティ等収入で運営費を賄うことを前提としているものの、これに公費による受託事業収入や協賛金が加わることで、名目上の収支均衡が図られています 12。しかし、もし公費や協賛金がなければ、入場券収入だけでは運営費を賄うことは極めて困難であり、損益分岐点は非常に高い水準にあると推測されます。これは、万博が純粋な商業イベントではなく、公共性の高いイベントであるという性質を反映しているものの、自立的な採算性には課題があることを示唆します。
さらに、会場建設費は当初の1.9倍、運営費は1.4倍に膨張しています 3。主な増額要因は、人件費上昇、遠方スタッフ宿泊費、環境変化対応費などです 4。人件費上昇や宿泊費の増加は、日本全体の労働市場の逼迫(特にサービス業の人手不足)と物価高騰を反映しています。環境変化対応費は、予見できなかった外部要因(例: 感染症対策、資材高騰、国際情勢変化)への対応を示唆しています。これらのマクロ経済環境の変化と、大規模プロジェクト特有の計画変更リスクが、万博の費用増大の主要因となっています。これらの構造的な要因は、今後もさらなる費用増大のリスクを内包しています。特に、会場運営スタッフが1日約10,000人以上必要であり、人手不足が懸念される中で、宿泊費の上振れなど追加コストが発生している点は、大規模イベント運営における労働力確保の難しさと、それがコストに与える影響の深刻さを示しており 4、損益分岐点をさらに押し上げ、採算性を悪化させる要因となります。
3. 間接的な収益と費用:経済波及効果と負の側面
万博の採算性を評価する上で、直接的な財務収支だけでなく、経済・社会・環境への間接的な影響、すなわち経済波及効果と外部不経済も考慮する必要があります。
間接的な収益(経済波及効果)
- 全国および大阪府域への経済波及効果の試算:
万博開催による経済波及効果について、経済産業省は全国で約2.9兆円、APIR(アジア太平洋研究所)は全国で約2.7兆円と試算しています 1。大阪府域への効果については、大阪府市が約1.6兆円、APIRが約2.1兆円と試算しており、機関によって差異が見られます 25。経済波及効果の内訳として、万博関連事業費の生産誘発額は1兆4,102億円、粗付加価値誘発額は8,055億円、雇用者所得誘発額は4,632億円とされています 27。また、来場者消費支出による生産誘発額は1兆3,355億円、粗付加価値誘発額は7,792億円、雇用者所得誘発額は3,726億円が見込まれています 27。
- 雇用創出効果:
万博の建設・運営に伴う雇用創出は「数十万人」規模に達すると見込まれており、短期的な地域経済の活性化に寄与します 1。大阪府の目標として、年平均1万人以上の直接雇用創出が掲げられています 29。万博と連携するIR(統合型リゾート)の開業により、年間約9.3万人の雇用創出が見込まれるとの試算もあり、長期的な雇用効果も期待されています 30。
- 不動産市場への影響と活性化:
万博開催決定後、大阪市全体で不動産需要が高まり、従来注目されなかったエリアにも開発の波が及んでいます 31。特に梅田周辺ではオフィス賃料の上昇や低空室率が続き、不動産投資家からも注目が集まるエリアとなっています 31。難波・心斎橋のホテルや商業施設も万博期間中は満員が予想され、街全体が活況を呈する見込みです 31。
- 国家ブランド・技術力向上への投資効果(非金銭的価値):
万博は「未来社会の実験場」として、再生医療、AI、ロボティクス、スマートシティ技術などの新技術展示や実証実験を通じて、海外企業・政府への技術アピール、ひいては「ジャパン・ブランド」の再構築に繋がる可能性があります 1。金銭的な尺度では測りにくい非金銭的価値(SDGs対応、ブランド価値向上、次世代人材の知的好奇心向上など)が、万博の真の費用対効果を評価する上で重要視されるべきとの見解も示されています 33。
間接的な費用(負の側面・外部不経済)
- 「消費のスライド」による経済効果の過大評価の可能性:
万博への支出が、他の地域や活動への支出を減少させる「消費のスライド」が発生する可能性が指摘されています 35。例えば、神戸在住の家族が沖縄旅行をキャンセルして万博を訪れた場合、万博の経済効果としてはプラスに計上されるものの、国全体としての消費は変わらないか、むしろ減少する可能性があり、経済効果の純粋性を損なうと懸念されています 35。万博の経済効果は数兆円規模と試算されていますが、その算出方法には「消費のスライド」という概念が考慮されていない可能性が指摘されています 25。経済波及効果の試算は、万博関連の新規支出が全て純粋な追加需要であると仮定していることが多いですが、実際には既存の消費活動からの転換が含まれるため、ネットの経済効果は試算を下回る可能性があります 35。経済効果試算の前提と現実の消費行動の乖離が、経済効果の過大評価に繋がり、企業が過剰な期待から万博関連の投資を拡大した場合、万博閉幕後の需要減退とともに深刻な供給過剰と経営悪化を招く危険性があります 31。これは、過去の愛知万博でも見られた反動減の懸念があり 31、経済効果の数字を鵜呑みにせず、その算出根拠と限界を理解した上で、より慎重な経営判断が求められます。
- 不動産市場の過熱と供給過剰リスク:
万博特需を見込んだ地価高騰や投機的取引が相次ぎ、実需を超えたバブルが生じるリスクが懸念されています 31。ホテルやマンションなどの供給過剰も懸念事項であり、万博に合わせて大量供給された物件は、終了後に競争激化で空室率の上昇を招きかねません。2005年の愛知万博でも大会後に宿泊需要が平常水準に戻り、過当競争による業績悪化が見られた事例があります 31。世界的な金利上昇局面が不動産投資資金の流れを細らせ、万博景気を当て込んだ開発が資金難に陥る可能性も指摘されています 31。
- 交通渋滞による経済損失と来場者・地域住民への影響:
大阪市は、万博期間中、会場最寄りの阪神高速「湾岸舞洲出口」で、週末や会期後半を中心に期間中の6割にあたる日数で午前8~10時台に交通容量を超過する渋滞を予測しています 37。万博開催とIR開業工事が重なるため、工事車両(1日2,182台)と万博関連車両(シャトルバス、来場者車両最大4,000台)が脆弱なアクセスルートに集中し、1日約6,200台の追加車両が流入する見込みであり、これが渋滞の主要因となります 37。交通渋滞は全国で年間約12兆円もの経済損失を生むと試算されており 38、万博期間中の大規模な渋滞が周辺地域の経済活動や物流に負の影響を与える可能性があります。
- 環境負荷(廃棄物、エネルギー消費)とカーボンニュートラルへの取り組み:
- 廃棄物: 博覧会協会は、期間中のごみ・資源物の総排出量を事前予測(グリーン・ビジョン2024年版による9,708.5トン)を下回ること、総排出量に対する資源化率を80%以上(熱回収除く)とすることを目標としています 40。大阪市全体の廃棄物処理量目標は2025年度で年間84万トンとされており 41、会場内では食品・プラスチック等の廃棄物削減、リサイクル、全量循環的利用を目指す方針が示されています 42。
- エネルギー消費・温室効果ガス: 会場内の電力使用による排出はゼロ(排出係数ゼロの電力使用)とする目標が掲げられています 44。ガス、軽油、会場外の電力使用については省エネ、電化、バイオディーゼル導入で削減し、残りはカーボンクレジットで手当てしカーボンニュートラル達成を目指すとしています 44。関西電力も2030年度までに温室効果ガス排出量を2016年度比50%削減を目標としています 45。GX(グリーントランスフォーメーション)技術の先行実装も計画されています 46。
万博は会場内の電力使用を排出係数ゼロとし、カーボンニュートラルを目指すとしていますが 44、また、廃棄物排出量削減と高資源化率(80%以上)の目標が設定されています 40。この「排出係数ゼロの電気」の利用は、再生可能エネルギー由来の電力購入やオフセットクレジットの活用を意味する可能性が高いです。しかし、サプライチェーン全体での排出(Scope3排出量)については削減が困難なものも多いと認識されており、これらをどこまでカバーできるかが課題となります 47。廃棄物目標に関しても、熱回収を除いた資源化率80%は高い目標であり、来場者の積極的な協力が不可欠となるでしょう 40。見かけ上のカーボンニュートラル達成や高資源化率の実現は、オフセットや来場者の行動変容に大きく依存するため、実質的な環境負荷削減には不確実性が残ります。万博が掲げる「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマに沿った環境目標は意欲的ですが、その達成には技術的な課題だけでなく、社会全体の意識変革と協力が不可欠であり、その実現可能性と真の環境負荷低減効果については、会期中および会期後の継続的な検証と情報公開が求められます。
- 地域住民への影響:
万博会場周辺の駐車場では、長時間駐車の料金が600円から7,000円に高騰する事例が報告されており、地元住民の困惑を招いています 48。これは、万博来場者による長時間の駐車場占有を避けるための措置ですが、住民の利便性を損ねる側面があります。万博公園周辺の音楽イベントで騒音や渋滞に関する苦情があり、住民がノイローゼ寸前という事例も報告されています 49。万博会場周辺でも同様の懸念があり、特に会期中の大規模な人流・物流は、地域住民の生活環境に影響を与える可能性があります。会場内でユスリカが大量発生し、飲食店への影響や来場者の不快感、アレルギー反応のリスクが懸念されています 50。これは環境管理上の課題であり、住民生活にも影響を及ぼしうる問題です。各種の世論調査では、万博開催について不要や反対の声が多数を占めており、特に開催地の大阪では、事業の不確実性や地元自治体の財政負担の大きさから反対意見が多いとされています 51。これは、公費投入が住民ニーズに合致しているかという根本的な問いに繋がります。
- 企業への負担:
企業が半ば強制的に協賛金やチケット購入を求められ、内部留保を取り崩すことで、企業の成長戦略、社員の給料、消費者へのしわ寄せが生じる可能性があると指摘されています 35。これらのデメリットは経済効果の試算に一切考慮されていないと批判されており、万博の経済的恩恵が一部の企業に偏る可能性も示唆されます 35。
4. 公費の活用と会計処理:透明性と説明責任
大阪・関西万博は、その運営と関連インフラ整備に多額の公費が投入されており、その活用状況と会計処理の透明性は、国民からの理解と支持を得る上で極めて重要な要素です。
公費負担の現状と内訳
- 会場建設費における国・自治体・経済界の負担割合:
最大2,350億円とされる会場建設費は、国、大阪府・市、経済界がそれぞれ1/3ずつ負担することとされています 5。国費負担分は最大783億円であり、令和6年度当初予算までに累計631億円が計上済みです 6。大阪市民一人あたり19,000円の負担試算も示されており、市民レベルでの財政負担が可視化されています 53。
- 日本政府館、途上国支援、会場安全確保、機運醸成等への公費投入:
万博に直接かかる国費は合計1,647億円に上るとされており 7、その内訳は以下の通りです。
- 日本政府館の出展費用として最大360億円 6。
- 途上国出展支援費用として約240億円 6。
- 会場内の安全確保費用として約255億円 6。
- 全国的な機運醸成等に要する費用として約40億円+今後の費用が見込まれています 52。
- インフラ整備費の扱いと「本来の行政目的」の議論:
万博に関連するインフラ整備費は、直接関連する費用が約8,390億円(国費負担を一部含む)とされ 7、さらに広域的なインフラ整備計画の総事業費は9.7兆円(2023年12月時点)から10.2兆円(2024年2月時点)に膨らんでいます 7。政府はこれらのインフラ整備について、「万博開催決定前から開始している事業や、万博開催期間以降も実施する事業」であり、「本来の行政目的のために実施する事業」であって「万博後も利用される」と説明しています 52。そのため、万博のみに資する金額を算出することは困難としています 57。この説明は、公費が万博のためだけの費用ではなく、長期的な地域開発や社会基盤強化への投資であるという位置づけを示唆しています。
以下の表は、万博に関連する公費負担額の主要な内訳を示しています。
表3:公費負担額の主要内訳
費用項目
見込み額 (億円)
負担主体(主要)
備考
会場建設費(国負担分)
最大783
国
総額2,350億円の1/3 5
日本政府館
最大360
国(経済産業省)
展示・運営・保守運用・解体費用 6
途上国支援
約240
国(経済産業省・外務省)
BIEへの約束費用 6
会場安全確保費用
約255
国(経済産業省)
来場者の安全確保費用 6
全国的な機運醸成等に要する費用
約40+今後の費用
国(内閣官房、各省庁)
広報・プロモーション、国際交流など 52
万博直接関連国費合計
1,647
国
会場建設費国庫負担分、日本政府館、途上国支援、誘致費用など 7
インフラ整備費(直接関連分)
約8,390
国、自治体、民間
会場周辺整備、アクセス向上など 7
インフラ整備費(広域計画総額)
約10.2兆
国、自治体、民間
関西広域の交通・安全・魅力向上など 7
注: 「万博直接関連国費合計」は、会場建設費国庫負担分、日本政府館、途上国支援、会場安全確保費用、機運醸成、誘致費用などを合算したものです。インフラ整備費は万博のみに資するものではないと説明されています。
公費の会計処理と費用対効果の議論
公費の投入は、短期的な「費用」としてだけでなく、長期的な「社会的投資」として捉える視点があります。インフラ整備計画の費用便益分析では、約9.4兆円の費用に対して約28.8兆円のリターンが見込まれるとされており 56、万博を含むこれらの事業が将来的には投資に対して大きな利益を生み出す可能性があるとされています 56。
しかし、この政府の説明は、公費を単なるイベント費用ではなく、長期的な地域経済活性化や社会基盤強化のための「社会的投資」と位置づける意図があると考えられます。一方で、万博がなければこれらのインフラ整備がこのタイミングで、あるいはこれほどの規模で実施されたかという疑問も残ります 35。これは、万博が特定の開発計画、特にIR誘致と連動している側面が強いことを示唆しています 7。万博を「契機」としたインフラ投資は、その後のIR誘致など、特定の開発計画と密接に連動している側面が強く 7、万博単体での費用対効果を測るのが困難になっている状況です。これにより、公費の支出が万博の直接的な採算性評価から切り離され、より広範な「地域活性化」の名目で正当化される傾向が見られます。公費が「投資」として正当化されるためには、万博終了後もそのインフラが持続的に活用され、経済効果が継続的に創出されることが不可欠です。特に、IR開業との連携が強調されますが 7、IR自体の経済性や社会影響評価も同時に考慮する必要があるでしょう。
万博の真の費用対効果は、チケット・グッズ等の売上ではカバーできない多額の税金が投入されている点を踏まえ、一時的な経済波及効果(フロー)だけでなく、非金銭的な価値(国家ブランド、技術力向上、SDGs対応、次世代人材の知的好奇心向上など)をいかに創出し、将来にわたって極大化できるかにかかっています 26。これらの非金銭的価値をどう定量的に評価し、国民への説明責任を果たすかが、公費投入の透明性と正当性を確保する上での大きな課題となります 33。
万博の最終的な収支が赤字になった場合、税金など公費で負担することも議論されており 24、むやみな値下げ戦略は来場者数を水増しするものの収支悪化を招くとの指摘もあります 24。市民からは、万博の事業の不確実性や地元自治体の財政負担の大きさに対する反対の声が上がっており 51、これは、公費の使途が住民ニーズに合致しているかという根本的な問題提起です。公費の使途や費用対効果に関する透明性、説明責任の強化が、国民の理解と支持を得る上で喫緊の課題となっています 53。
5. 総合的な採算性評価と今後の展望
大阪・関西万博の採算性を総合的に評価すると、直接的な財務面では、公費や協賛金による大規模な補填がなければ、入場券収入やロイヤリティ収入だけでは運営費を賄いきれない構造にあることが明らかです。これは、万博が純粋な商業イベントではなく、公共事業としての性格が強いことを明確に示しています。
間接的な経済波及効果は数兆円規模と試算されるものの、「消費のスライド」やインフラ整備費の会計処理の曖昧さなど、その純粋性や実効性には批判的な見方もあります。これらの間接効果が、多額の公費投入を正当化するに足るものか、継続的な検証が求められます。
公費の投入は、短期的な収益性だけでなく、長期的な社会的投資(インフラ整備、国家ブランド向上、技術アピール、雇用創出)としての側面から正当化されるべきです。しかし、その「レガシー」が具体的に何であり、どのように持続的な価値を生み出すのかを明確にし、定量・定性両面で評価し続ける必要があります。IRとの連携も、万博単体の費用対効果を曖昧にする要因となりうるため、その独立した評価も重要となります。
万博の採算性には、いくつかのリスク要因と課題が存在します。運営費のさらなる増加は、人件費や資材費の高騰、予期せぬ事態(例:感染症の再燃、自然災害、警備体制の強化)による追加費用発生のリスクが依然として存在するため、公費負担のさらなる増加は避けられない可能性があります 4。目標来場者数2,820万人(うち2,200万人を入場券売上の前提とする)の達成は、万博の直接的な採算性に直結する最も重要な要素であり 3、入場券の値下げ戦略は収支悪化を招く可能性があり、来場者確保と収益性のバランスが引き続き課題となります 24。
また、ポスト万博の反動も懸念されます。不動産市場の過熱後の供給過剰、観光需要の反動減、雇用の一時的な減少など、万博終了後の経済的・社会的な影響を慎重に分析し、対策を講じる必要があります 31。2005年の愛知万博の事例も踏まえ、長期的な視点での戦略が不可欠です。地域住民との共存も重要な課題です。交通渋滞、騒音、環境問題(ユスリカなど)への対応、公費負担に対する住民の理解を得るための継続的な努力が不可欠であり 48、住民の不満が高まれば、万博の成功そのものに影を落とす可能性があります。
これらの課題を踏まえ、採算性向上に向けた提言は以下の通りです。
- コスト管理の徹底: 運営費の変動費・固定費の細分化と管理を強化し、無駄を削減することが求められます 61。特に、人件費や資材費の変動リスクに対するヘッジ戦略を検討し、予期せぬコスト増大を抑制するべきです。
- 収入源の多角化・最大化: 入場券収入だけでなく、協賛金やロイヤリティ収入のさらなる拡充、新たな収益機会の創出に取り組む必要があります 3。例えば、デジタルコンテンツ販売やオンラインイベントの収益化なども検討の余地があります。
- 非金銭的価値の最大化と可視化: 万博がもたらす技術革新、国際交流、ブランド力向上といった非金銭的価値を積極的に発信し、国民的理解と支持を得るべきです。これらを将来の経済成長や社会課題解決にどう繋げるか、具体的なレガシー計画を明確にし、その進捗を定期的に評価・公開することが重要です 1。
- 透明性と説明責任の強化: 公費の使途、費用対効果、経済波及効果の算出根拠について、より詳細かつ客観的な情報公開を行い、国民への説明責任を果たすべきです。特に、インフラ整備費と万博の関連性については、その費用便益分析の妥当性を継続的に検証し、情報開示を進めることが求められます。