2025年東京世界陸上の採算性分析
投稿日: 2025-09-20
カテゴリ: note

ChatGPT 5 と Gemini 2.5 Flash に聞いた。
- 直接的な収支は、収入・支出ともに総額174億円
- 国と東京都からの支援金80億円
- 物価高などにより当初想定より +24億円 となったが、チケット収入および協賛金・寄付金の増額で賄った
- 今回は過去の東京五輪の汚職・談合事件を踏まえて、電通などの代理店を起用しない運営モデルが選択された
- 前例のないオープンな公募によるスポンサー獲得で、目標額30億円を上回る40億円を自力で集めた
- 代理店手数料も浮いたが、そのぶん内部コストが増加したかもしれない
- 経済波及効果という視点から見ると、公費の投入は500億円規模の間接的な経済活動を誘発するための「初期投資」と解釈でき、公共的な投資収益率を考慮すれば十分に正当化される
- 新国立競技場がすでにあり、新たな建設投資は不要なことも大きい
- 公費80億円で、経済効果500億円とすれば波及効果は公費の6.25倍
- コストパフォーマンス良く、他の公共投資と比較しても高水準らしい
- 2021年の東京五輪では最終的に3兆円以上の経費を投じたが、コロナ禍の影響もあり経済波及効果は約6兆1,442億円と2倍程度にとどまったとの推計
- 新国立競技場建設費 約1569億円もあるが、それにしても桁が違う
- 1会場だけでは済まないことが大きそう
ChatGPT 5 Deep Research
2025年東京世界陸上の採算性分析
1. 直接的な売上と費用の見通し
東京2025世界陸上競技選手権大会(以下、東京世界陸上)の大会予算は、当初計画で約150億円と見積もられていました 。しかし近年の物価高騰等の影響で費用が増加し、2024年8月時点では大会経費は174億円に修正されています 。大会を運営する一般財団法人東京2025世界陸上財団は、収入・支出とも174億円規模とし収支均衡を図る計画です 。以下に主な収入源と費用内訳を示します。
- チケット収入: 当初目標は約30億円でしたが、大会9日間でのべ42万枚超のチケット販売(開幕1か月前時点)により、約44億円の収入を見込むまで増加しました 。満席の国立競技場(収容約6万人)を目指し販売が進められています 。
- 協賛金・寄付金(スポンサー収入): 当初目標30億円に対し、約40億円を確保しました 。広告代理店に頼らず大会財団自らスポンサーを公募する「東京モデル」の下、スポンサー企業20社前後から計40億円の協賛金を集め、当初計画を上回りました 。スポンサーは協賛額により「プリンシパルサポーター(1社3億円以上)」「サポーター(1社1億円以上)」「サプライヤー(1社3000万円以上)」の3区分で募集され、近畿日本ツーリスト、森ビル、TBS、東京メトロなどが最高位スポンサーに名を連ねています 。スポンサーには大会ロゴ使用権や会場広告掲出など様々な権利が付与されます 。
- 放映権料: 世界陸上の放映権については、TBSが世界陸連のオフィシャルブロードキャスターとして契約しており、国際映像の制作も担います 。ただし放映権収入は世界陸連とグローバル契約している電通経由で処理されるため、開催地組織委の直接収入には計上されていません 。したがってテレビ放映権料は東京大会財政の主要収入源ではなく、国内向け中継の制作費等は大会側が負担する形です(※大会映像制作費は大会予算に含まれる) 。
- その他収入: 上記以外に、日本陸上競技連盟(日本陸連)が10億円を拠出します 。また不足分は公的資金で補填されます(後述のとおり東京都負担60億円、国負担20億円) 。この公費80億円は大会収入の「その他」区分に計上され、民間収入で賄えない部分を埋め合わせるものです 。大会公式グッズの販売収入や会場内飲食物販収入などもありますが、大会全体への寄与は小さく、主な収入源はチケット・スポンサー・公費となっています 。
以上より、大会運営費174億円のうち約半分をチケット・スポンサー等の事業収入で、残り半分弱を公費および日本陸連拠出金で賄う形です 。収入計画と支出計画の概略を以下の表にまとめます。
区分
内訳
金額(億円)
収入
チケット販売収入
44
協賛金・寄付金(スポンサー収入)
40
日本陸連からの拠出金
10
東京都補助金
60
国庫補助金
20
収入計(2024年修正後)
174
支出
仮設設備・情報システム等オーバーレイ
30
輸送サービス・警備体制
15
競技運営・大会運営オペレーション
55
広報・人件費・管理運営
45
予備費
5
支出計(当初計画)
150
支出計(2024年修正後)
174
(注)支出内訳は当初計画時点。物価高による増額分+24億円は各費目の増加として反映(修正後合計174億円) 。
支出面では、競技運営費や会場整備費、警備費など大会開催に直接必要な費用に加え、PR・広報、人件費、情報システム整備費などが含まれます 。例えば競技関連経費(55億円)には、トラック&フィールドやマラソン競技の運営費、競技用備品調達費、選手への賞金(世界選手権では種目ごとに賞金が設定されています)などが含まれます 。広報・管理費用(45億円)には大会公式サイトやSNS運用、プロモーション映像制作、環境対策、職員人件費等が含まれます 。警備費用や大会関係者の輸送費(15億円)も重要な支出項目です 。会場となる国立競技場は既存施設(東京五輪のメイン会場)を活用するため、新規スタジアム建設費は不要ですが、仮設設備の設置や通信インフラ整備などのオーバーレイ費用に30億円が割り当てられています 。
以上のように、大会自体の収支は公費補填を織り込むことで帳尻を合わせる計画です 。大会運営委員会は「収入・支出ともに174億円となり収支均衡の見込み」としており 、少なくとも会計上は赤字を残さずに大会を終える計画です。ただし、これはあくまで公的支援を含めた収支であり、純粋な事業収入だけでは大会経費の全額を賄えない点に注意が必要です 。
- 東京2025世界陸上 財政計画について 一般財団法人東京2025世界陸上財団
- 負の遺産、60億円をガラス張りに 東京五輪の個人データはフル活用 [世界陸上]:朝日新聞
- 世界陸上、電通外しもスポンサーは確保。 \| 放映権事情を妄想しながらスポーツ中継を楽しむ
- 世界陸上で試される脱「電通依存」:五輪不正受けたスポーツビジネスの「東京モデル」は根付くのか | nippon.com
2. 間接的な売上・費用(経済効果)の見通し
直接収支には表れない経済的波及効果も、国際大会の採算性評価において重要な観点です。東京世界陸上の開催は、観光需要の喚起や関連産業への波及など間接的な「売上」効果をもたらす一方、インフラ整備や社会的コストといった間接的な「費用」負担も発生します。本項では、大会開催による経済波及効果(直接・間接効果)および社会的費用について分析し、間接効果を含めない場合と含めた場合それぞれで採算性を評価します。
2.1 観光・インバウンド需要増による間接収入効果
東京世界陸上の経済波及効果は日本陸連の試算で約500億円と見込まれています 。これは大会開催によって生じる観客や選手関係者の消費支出、および関連産業への需要波及を金額換算したものです。経済効果は以下のような要素から構成されます 。
- 直接効果: 大会期間中に観客・関係者が開催地で直接支出するお金です 。具体例として「チケット代」「宿泊費」「飲食費」「交通費(航空券や電車代)」「土産物・グッズ購入費」等が該当し、開催地にもたらされる即時的な消費となります 。東京大会では国内外から多数の観客が訪れ、ホテル宿泊や飲食店利用などで直接消費を行うため、この直接効果が経済に潤いを与えます。
- 間接効果: 大会による直接消費が関連事業者へ波及する効果です 。例えば観客増加に対応してホテルが清掃業者やリネンサプライ業者への発注を増やす、飲食店が食材調達先の農家や酒造への仕入れを増やすなど、イベント起因の需要拡大が二次的な取引拡大を生みます 。これにより、一見大会と直接関係のない地元企業にも収益増の波が及びます。
- 誘発効果: 大会開催が契機となり将来の投資や雇用を生む効果です 。例えば「訪日客増加を見越したホテルの改装・新規建設」「自治体による多言語案内表示の整備」「大会での経験をきっかけにスポーツ・観光業界に進路を志す若者の増加」「海外メディア報道による都市ブランド向上で将来の観光客増加」など、長期的・波及的な地域活性化につながる効果が含まれます 。これらはすぐには数字に現れないものの、将来の経済成長や雇用創出に寄与する重要な「無形のレガシー」です 。
東京世界陸上では、約200の国と地域から2,000名規模の選手団が来日し、それを取材・支援する大会関係者、そして国内外から多数の観客が東京を訪れます 。大会期間中の観客動員数は延べ50~60万人規模に達すると見込まれ 、そのうち海外からの訪日客も数万人規模に上る可能性があります。実際、2007年大阪大会では国内観光客約43万人、海外観光客約2万人が訪れたと推計されており 、東京大会でもこれを大きく上回るインバウンドが期待されます。読売新聞の報道によれば開幕1か月前時点でチケット販売枚数が42万枚を突破しており 、これは大阪大会の観客数を既に超える勢いです。東京は都市規模や国際的な人気で大阪以上の集客ポテンシャルがあるため、直前需要を含め最終的な観客延べ動員は50万人超も十分見込めるでしょう 。
観客1人あたりの平均消費額については、過去大会の事例から6~8万円程度と推定されます 。例えば2023年ブダペスト大会では訪問者約50万人、1人平均約8万円消費し、最終的な経済効果は約470億円にのぼったと報告されています 。ロンドン2017大会では観客70万人超で経済効果800億円超との試算もあります 。東京も鉄道網や宿泊インフラが充実し滞在中の消費機会が多い都市です 。仮に60万人来訪・1人平均7~8万円消費とすれば、大会期間中の直接消費だけで約400~480億円となり、さらに間接効果・誘発効果を加味すれば総計500~700億円規模の経済波及も充分に現実的です 。日本陸連の500億円試算はやや保守的とも考えられ、インバウンド市場の盛り上がり次第ではそれを上回る効果も期待できると指摘されています 。
具体的な間接効果の内訳として、観光業・宿泊業への恩恵が大きいことが予想されます。2019年ラグビーワールドカップ日本大会では全国で約24万人の訪日客を集め、宿泊・飲食・娯楽等の消費額3482億円(経済波及効果6464億円)の成果を上げました 。東京世界陸上でも期間は9日間と短いものの、競技日程が集中する分観戦目的の滞在消費が期待できます。大会期間中、東京のホテルは国内外からの宿泊需要増で高稼働率が見込まれ、大阪2007大会時には主要ホテル稼働率が前年同期比+10%となり客室単価も上昇したとの報告があります 。東京でも宿泊・飲食・交通機関・小売など幅広い分野で一時的な売上増がもたらされるでしょう。航空会社や新幹線など長距離交通も訪日客や国内観光客の移動需要で売上増となり、地元商店や観光施設も賑わいが予想されます。
2.2 インフラ整備・社会的費用など間接的な支出
一方、間接的な「費用」面としては大会開催に伴う社会的コストが挙げられます。主なものは以下の通りです。
- インフラ整備コスト: 大会開催を契機に行われる都市インフラの整備や改修です。東京の場合、新国立競技場等の主要競技施設は既に東京五輪で整備済みですが、関連する道路整備、交通案内の多言語化、バリアフリー化など追加対応が発生する場合があります 。もっとも、こうした整備は大会後も市民や観光客に資するレガシーとなるため、「投資」と捉えることもできます 。今回特に新規の大型建設はなく、ブダペスト大会のように数百億円規模で新競技場を建設するケース に比べれば、東京大会のインフラ追加投資負担は限定的です。
- 追加の行政サービス費用: 大会開催に伴い警察による警備強化や交通規制対応、医療救護体制の拡充などが必要となり、その費用は一部が行政負担となります。警備費や救護所の設置運営費などは大会予算(15億円の「警備・輸送等」経費)にも含まれていますが 、大会期間中の警察官増員配置や都市交通の臨時対応に公費が充当される部分もあります。このような費用は**社会的費用(外部費用)**として広義には開催コストと言えます。
- 環境・社会への負荷: 大会開催による一時的な混雑や騒音、CO2排出増など環境負荷も考慮すべきコストです。特にマラソンや競歩実施時の交通規制による周辺交通渋滞の悪化や、市民生活への影響(通勤時間の増加、営業機会の損失など)が発生し得ます。ただし期間が限定的であるため恒常的影響は小さく、東京のような大都市では迂回路確保等で大きな社会混乱なく対応可能と見られています。
- 機会費用: 公的資金を大会に投入することで、他の行政サービスに充てられたはずの予算が振り替えられる点も一種のコストです。限られた財政資源をスポーツイベントに使うことへの是非は議論があるところですが、投入額80億円に対し経済効果500億円が見込まれるのであれば費用対効果は十分高いと考えられます。
以上の間接的費用は定量化が難しい面もありますが、大会開催による社会全体の費用負担として把握しておく必要があります。幸い東京世界陸上では既存施設活用や効率的運営により、開催のため特別に新設・改修した大型インフラはほとんど無く、社会的費用は比較的低く抑えられていると評価できます。例えばハンガリー政府は2023年ブダペスト大会の新競技場建設に約700億円(5億ユーロ超)を投じ 、運営費も約82億円(約8180万ユーロ)を公費負担しています 。これに対し東京大会は既存の国立競技場(建設費1569億円は既に過去支出)を使うため新たな建設投資は不要で、公費投入も80億円で済んでいます 。巨額の先行投資を要せずに開催できる点は、東京大会の採算面での大きな利点です。
なお、大会開催によって得られる無形のプラス効果も見逃せません。都市ブランドや国際的プレゼンスの向上、地域の一体感醸成、スポーツ振興の促進といった効果は金銭換算が難しいものの、長期的に見れば社会にもたらす価値は計り知れません 。東京五輪は無観客開催となり観光効果が得られませんでしたが、その代わりに世界中の報道・SNS投稿を通じて将来の訪日意欲が向上した人が推計3.9億人に達したとの分析もあります 。今回の世界陸上も「スポーツの祭典を東京で開催した」という事実が国内外に記憶され、今後の観光誘致や都市イメージ向上に資するレガシーとなるでしょう。
2.3 間接効果を含めない場合の採算評価
まず間接的な経済効果を考慮に入れない場合、すなわち大会組織委員会の収支だけに着目すると、東京世界陸上は純粋な黒字ビジネスとは言い難い状況です。前述のように大会運営費174億円に対し、チケット・スポンサーなどの民間収入は約84億円にとどまり、差額の90億円は日本陸連拠出金と公費補助で補填されています 。この構図は、大会自体は市場原理だけでは成立せず公的支援を要するイベントであることを意味します。
公費投入も広義には「費用」に他なりません。東京都や国が支援しなければ、大会収支は大幅な赤字となり開催は困難でした。事業収入ベースで見れば収入約84億円に対し支出174億円ですから、約90億円の赤字を公金で穴埋めする格好です 。つまり直接的収支のみでは採算が取れていないのが実情です。
もっとも、公費80億円は予め計上されたものであり、政府・自治体としてもスポーツ振興や都市PRへの投資と位置づけています。東京都は大会開催を「東京の発展に寄与する契機」と捉え全面支援を表明しており 、国も地方創生や観光促進の観点から補助金を拠出しています。大会組織委員会の会計上は収支均衡(損益ゼロ)を達成する見込みですが 、厳密な意味での「黒字」(利益剰余が出ること)ではありません。したがって間接効果を度外視すれば、本大会は採算だけを目的とした営利事業ではなく、公的支援によって成り立つ公共的イベントと言えます。
2.4 間接効果を含めた場合の採算評価
次に、間接的な経済波及効果を含めて評価すると、東京世界陸上の開催は十分に元が取れる投資と考えられます。試算される経済波及効果500億円は、公費投入80億円の6倍以上に相当します。単純に言えば、政府・自治体が80億円を支出して500億円の需要を喚起するのであれば、費用対効果は極めて高いと評価できます。東京都に限って見ても、都が負担する60億円に対し都内経済への波及効果は数百億円規模と見込まれるため、地域経済への投資として十分意義があるでしょう。
大阪2007大会では大阪市の公費負担約30億円に対し経済効果265億円(市内)~300億円(関西全体)を生み 、公的支出の約10倍に上る地域経済波及を達成しました。東京大会でも同程度以上の倍率効果が期待でき、仮に経済効果500億円・公費80億円とすれば波及効果は公費の6.25倍に達します。これは他の公共投資と比較しても高水準です。例えば東京五輪では最終的に3兆円以上の経費を投じましたが、コロナ禍の影響もあり経済波及効果は約6兆1,442億円(関西大学・宮本名誉教授試算)と投入比2倍程度にとどまったとの推計があります 。それに比べれば世界陸上への支出は少額で、得られるリターン(経済効果)は支出額の数倍規模と、コストパフォーマンスが良いことがわかります。
さらに誘発効果や無形のレガシーまで含めれば、定量的な収支を超えた価値が生まれます。大会後の観光客誘致増、市民のスポーツ参加意欲向上、都市ブランド価値上昇による将来的な投資呼び込みなど、長期的利益も見逃せません 。【図らずも無観客となった東京五輪ですら、報道を通じて将来の訪日意欲を高める効果が確認されたほどです【13†L89-L97】。世界陸上も「スポーツビジネスの東京モデル」として透明性の高い運営を国内外に示すことで、日本への信頼醸成や次世代国際大会招致への弾みになる可能性があります。
以上より、間接的な効果まで総合的に考慮すれば、東京世界陸上は経済的・社会的リターンが公的コストを大きく上回ると言えます。したがって「広い意味で採算が取れる(元が取れる)」イベントであり、開催による社会全体の利益は十分大きいと評価できます。
- [世界陸上がもたらす“数百億円”の波──スポーツイベントの経済効果を読み解く|経営企画室長\|MBA](https://note.com/mbaai/n/n0a0d30768cc2)
- [世界陸上が開幕、その経済効果は?インバウンド消費は期待できる? \| 訪日ラボ](https://honichi.com/news/2025/09/12/worldathletics2025/)
- [経済指標レポート 第 235 号 世界陸上2007大阪の採算性](https://www.kankeiren.or.jp/material/pdf/report/ei235.pdf)
3. 公費投入の規模・内訳と自治体・国の負担比率
東京世界陸上の開催費用には多額の公費が投入されます。大会当初予算150億円の時点で、約60億円を東京都、20億円を国が負担する方針が決まっていました 。これは最終的な大会予算174億円においても変更はなく、公費合計80億円(東京都75%、国25%の比率)で据え置かれています 。日本陸連が拠出する10億円も含めれば、公的性格の資金は合計90億円となり、全体の半分強(約52%)に達します。残り48%を占めるチケット・スポンサー収入と対比すると、大会財政は半分以上を税金や公共団体の資金に依存していることがわかります 。
東京都は大会招致段階から積極的に財政支援を約束しており、大会組織委員会(東京2025世界陸上財団)の設立にも深く関与しています 。都の負担60億円は主に大会運営費や準備費用への補助として充当され、東京都を通じて国からの支援20億円も合わせて投入されます 。東京都は「世界最高峰の大会開催を東京の発展に繋げる契機」と位置づけ、全面的な支援を要望しています 。また、この公費には大会開催前の準備段階で必要な経費(組織委人件費やテストイベント費用等)も含まれており、長期的な計画に沿って支出されています。
国費20億円は、スポーツ庁(文化庁)所管の国際大会支援予算や観光振興予算から拠出されているとみられます。国としては大会成功による国威発揚や訪日観光促進、地域経済活性化を期待しての投資であり、特にインバウンド需要喚起は政府の観光立国政策にも合致します 。地方開催の例では、2019年ラグビーW杯日本大会でも開催自治体と国が費用を分担し、例えば東京都は開会式関連費用等で補助を行いました。今回の世界陸上でも東京都と国が明確に費用分担を決め、開催経費を公費で底支えする体制が整えられています。
公費の使途としては、大会運営費の不足分充当が中心ですが、一部は大会関連の都市施策にも使われます。例えば東京都は観光振興策や大会PR事業も展開しており、その経費の一部は都予算から拠出されています。また、ボランティア育成や文化プログラムなど大会付随イベントにも公的支援が行われています。東京都は東京五輪で培ったボランティア組織や多言語案内ノウハウを活かし、比較的低コストで円滑な大会運営を目指していますが、それでも警備や運営補助として一定の公費支出は避けられません。
他都市の例と比較すると、東京世界陸上への公費80億円は決して過大ではないように見えます。例えば2025年開催のデフリンピック(聴覚障害者の国際大会)では東京都の支援額が約100億円に達すると報じられています 。また、東京五輪では国・東京都・大会組織委員会等から数千億円規模の公費が投入されたことと比べれば、世界陸上の公的負担は桁違いに小さいです 。大会規模(経費ベース)自体が東京五輪の100分の1程度であり 、東京都や国にとって大きな財政負担とは言えません。むしろ前述の経済効果を考慮すれば、適切な先行投資と見る向きもあります。
総じて、公費投入80億円は東京都・国がそれぞれの役割で大会を支えるための必要経費であり、現状この範囲で収まる計画です。大会財政計画では「今後さらなる経費精査を行いながら、東京都に支援を要望するとともに、国による全面的支援を東京都を通じて要望していく」と記されており 、今後もし収入不足や費用超過が生じた場合でも追加の公費支援を仰ぐ余地が示唆されています。しかし現時点ではスポンサー・チケット収入が上振れしたため、追加公費なしで174億円に対応できる見通しです 。東京都・国の負担比率(3:1)は維持され、双方の合計80億円の範囲内で大会収支のバランスが保たれる見込みです。
4. 「脱・代理店依存」の運営体制と採算への影響
東京世界陸上の運営において特筆すべきは、過去の大型スポーツ大会で慣例だった広告代理店への過度な依存を改めた点です。特に東京五輪で発覚した汚職・談合事件(大会スポンサー選定を巡る贈収賄、およびテスト大会業務の入札談合)を教訓に、今大会では電通をはじめとする広告代理店を「専任代理店」として起用しない運営モデルが採用されました 。この「脱・電通依存」モデルは大会運営面の透明性向上を図る取り組みであり、「東京モデル」とも称されています 。
過去の大会運営と電通の関与: 電通は長年、日本のスポーツビジネス界で巨大な影響力を持ち、五輪やサッカーW杯、世界陸上などのマーケティング業務を一手に担ってきました 。例えば東京五輪では、招致決定翌年の2014年に組織委員会と電通が「専任代理店」契約を締結し、スポンサー収入1800億円を電通が最低保証する取り決めを交わしています 。結果的に東京五輪の国内協賛金は史上最大の3761億円に達しましたが、その裏では電通元専務がスポンサー選定で賄賂を受領し、多くの広告代理店・イベント会社と共に入札談合で大会運営業務を不正に分配していたことが明るみに出ました 。電通グループは独占禁止法違反で有罪判決を受け、関係者も逮捕起訴されるという前代未聞の不祥事となりました 。「電通任せ」の体質がもたらした弊害として、日本のスポーツ界に大きな影を落とした事件です 。
東京モデルの取り組み: こうした反省から、東京世界陸上財団は自らスポンサーを公募し、透明性の高い入札方式で契約先を決定する道を選びました 。公式ウェブサイト上でスポンサー募集要項を公開し、協賛カテゴリーごとに条件(最低協賛額)を明示して入札を行うという、従来にはない開かれた手法です 。実際、スポンサー募集ページには各ランクの協賛金基準が記載され、契約企業には与えられる権利内容も細かく公表されています 。従来はスポンサー契約の詳細は守秘義務で非公開が通例でしたが、今回は契約条件自体を透明化した点が大きな特徴です 。
代理店不使用の成果と影響: 財団は営業ノウハウが乏しい中でのスタートでしたが、前例のないオープンな公募によりスポンサー獲得に成功し、目標額30億円を上回る40億円を自力で集めました 。これは**「電通抜きでもやれる」ことを示す画期的な成果**と評価できます。代理店を使わなかったことで、通常であれば代理店に支払うマージンや手数料が発生せず、スポンサー収入の全額を大会運営に充当できる利点もありました。仮に40億円のスポンサー収入に対し通常15~20%程度の代理店コミッションが差し引かれる契約であれば、6~8億円が代理店側に渡っていた計算になります。今回はそれが不要となった分、大会財政的にも有利に働いたと推測できます。
もっとも、代理店不在によるデメリットや課題も指摘されています。JBpressの取材では「電通不在を嘆く声」も一部で聞かれたといいます 。例えば大口スポンサーの開拓や国際的スポンサーとの調整など、電通が持つネットワークと経験を活かせないことで営業機会を取り逃がす懸念もありました。しかし世界陸上の場合、世界陸連(WA)公式のグローバルスポンサー(TDKやセイコー、トヨタなど)は別枠で既に存在しており、国内独自に募集できるスポンサーカテゴリーにも限りがあります。財団はそうした制約下で現実的な目標を設定し、結果的に予定以上のスポンサー収入確保で費用増をカバーする成果を上げました 。むしろ**「脱電通モデル」が定着すれば、業界全体に健全な競争を促す良いきっかけになる**との期待も示されています 。
運営体制面でも、契約や経費チェックの厳格化が進められています 。五輪不正を受け、契約プロセスのコンプライアンス徹底や会計のガラス張りが求められる中、東京世界陸上では入札契約の透明性確保とコスト縮減が図られました。具体的には、開会式・閉会式演出や運営業務などで公募入札を実施し、特定企業への随意発注を極力避けています 。多少の混乱はあったものの、競争入札により適正価格での契約がなされたと報じられています 。これも大会運営費の効率化(コスト削減)に寄与し、結果的に限られた予算内で質の高い運営を実現する助けとなりました。
国際契約上の留意点: なお、電通は世界陸連と2020~2029年の世界独占マーケティング権・放送権契約を結んでおり 、その中には「日本で世界陸上を開催する」との条項も含まれていたとされます 。今回その条件が満たされたことで、電通としては自社契約の履行という意味で関与しています。また放送権については欧州以外の地域で電通との契約が続いており、日本における大会テレビ中継(TBS)も電通契約下で提供されます 。つまり国内スポンサー営業など表面的には電通を外しても、グローバルなマーケティング権を通じて電通は大会ビジネスに間接的に関与している状況です。この点、電通は大会公式スポンサー契約から収益を得る構造ではありませんが、世界陸連へのマーケティング権料収入として電通が利益を上げる契約になっていると考えられます 。
総合すると、「脱・代理店依存」の運営体制は大会収支と運営の両面にポジティブな影響を与えました。スポンサー収入増とコスト削減で財政面の健全化に寄与し、腐敗リスクの低減で大会ブランドの毀損防止にも繋がりました。もっとも、従来型の手厚い代理店サポートがない分、組織委側の負担は増えたと推測されます。今後もこの「東京モデル」を継続するには、人材育成やノウハウ蓄積が必要でしょう。しかし本大会の成功により、スポーツイベント運営の新たなガバナンスモデルとして一定の評価を得られれば、日本全体のスポーツビジネスが健全化し、長期的にはコスト削減と収益力強化の好循環を生むことが期待されます。
- [世界陸上で試される脱「電通依存」:五輪不正受けたスポーツビジネスの「東京モデル」は根付くのか \| nippon\.com](https://www.nippon.com/ja/in-depth/d01165/)
- [脱・電通の世界陸上は自力で40億円集めたが…メガイベントは東京五輪の反省を生かせるか、「電通不在」嘆く声も\(1/3\) \| JBpress \(ジェイビープレス\)](https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/90618)
- [世界陸上、電通外しもスポンサーは確保。 \| 放映権事情を妄想しながらスポーツ中継を楽しむ](https://www.sportmediarights.tokyo/posts/57428849)
5. 他都市開催の国際大会との比較
最後に、近年他都市で開催された類似の国際スポーツ大会と収支や経済効果を比較します。世界陸上競技選手権は2年に一度開催され各都市が持ち回りでホストしますが、開催国の経済状況やスポーツマーケティング事情により収支構造や公費負担は様々です。また、オリンピックやラグビーW杯など他のメガイベントともスケール感を比較することで、東京大会の位置づけが明確になります。
- 2023年ブダペスト世界陸上(ハンガリー): ブダペスト大会はハンガリー政府が主導しており、新築のナショナルアスレチックスセンター(収容約36,000人)建設に約2460億フォリント(約630億円)を投じました 。大会運営費については約8180万ユーロ(約120億円)を政府が負担したと報じられています 。観客数は約50万人、経済波及効果は約4億800万ドル(約600億円)に達したとの試算があります 。公費投入は大きかったものの、大会後もスタジアムは陸上競技のレガシーとして活用され、効果額は投資額を上回ったとみられます。東京大会は既存施設活用のため新設投資が不要で、純粋な運営費もブダペストよりやや大きい程度(東京174億円≒ブダペスト120億円強)です。ブダペストでは国が費用の大半を負担しましたが、東京は都と国で分担しており、日本の方が地方自治体の関与が大きい構図です。
- 2022年オレゴン世界陸上(米国): 米国初開催となったオレゴン大会は、ナイキ本社のある小都市ユージーンで開催されました。観客動員は公表ベースで延べ約14万人程度と推定され 、チケット収入はさほど大きくなかったようです。運営費の多くをナイキ社や地元スポンサー、州政府支援で賄い、チケット売上不足分は州が補填したとも伝えられます(正確な額の公表はなし)。観客数が少なかったこともあり、経済効果は数百億円規模には達しなかったものと見られています。一方、米国開催により陸上競技の市場拡大や施設整備が進んだ意義が強調されました。東京大会はこれに比べ観客規模も収入規模も格段に大きく、世界陸連にとっても商業的成功が期待できる大会です。
- 2017年ロンドン世界陸上(英国): ロンドン大会は五輪翌年にロンドン五輪の施設(ロンドン・スタジアム)を活用して開催され、観客数は約70万人と史上最大級でした 。直接経済効果は約7900万ポンド(約110億円)、広義の経済波及効果は1.09億~1.596億ポンド(約159~234億円)との報告があります 。日本の報道では「経済効果800億円超」とする試算もあり差がありますが 、少なくとも英国政府・ロンドン市は大会成功により得た経済効果を高く評価しました。ロンドンではUKスポーツ(政府機関)等が大会費用を補助しつつ、チケット収入やスポンサー収入でかなりの部分を自力調達しました。東京大会はロンドンほど観客動員は多くない見通しですが、それでもトップクラスの規模であり、経済効果でもロンドン並みかそれ以上を狙える位置にあります。
- 2007年大阪世界陸上(日本): 18年前の大阪大会は長居陸上競技場で開催され、観客延べ約46万人(うち海外2万人)を集めました 。大会経費は約130億円(当時)で、大阪市・府やスポーツ振興投資で公費支援を行いました。経済波及効果は大阪市で約265億円、関西全域で約300億円と推計され 、公費投入額約30億円に対し10倍前後の波及効果を上げています。東京大会は物価上昇もあり経費規模が約1.3倍に増えていますが、経済効果は大阪の約1.5~2倍(500億円)に伸びる見込みで、インバウンド重視の昨今の情勢も考えれば妥当な伸びと言えます 。
- 他のメガイベントとの比較: 東京五輪2020は特例的なケースですが、最終的経費は1兆6440億円(組織委計上分)+東京都等関連経費でトータル3兆円規模となりました。一大会の費用負担として世界陸上(174億円)の約100倍にも上ります 。経済効果も桁違い(先述のように6~32兆円試算など幅あり)ですが、コロナ禍で縮小しました 。ラグビーW杯2019日本大会は全国開催かつチケット収入も商業収入も多く、大会組織委は単年度黒字を計上しています。一方、FIFAサッカーワールドカップのようにスタジアム整備等に莫大な公費を投じる大会もあり、開催国にとって必ずしも経済的にペイしない例もあります。こうした中で、世界陸上クラスの大会は比較的少ない投資で確実な経済効果をもたらす中規模イベントと言え、東京大会もその例に漏れません。
以上の比較から、東京世界陸上は他都市の同種イベントと比べても健全な収支計画と高い経済効果のバランスが取れていることがわかります。他都市では新設施設への投資負担が重かったり、観客動員に苦戦したりするケースもありますが、東京は既存インフラと大都市の集客力を活かし、過去大会の良いとこ取りをした開催が可能となっています。特に大阪2007大会との比較では、公費負担の効率性(投入に対する効果倍率)も向上しており、前回日本開催の経験が十分活かされていることが見て取れます。
6. 総合評価:東京世界陸上の採算性は取れるか
以上の分析を総括すると、2025年東京世界陸上は直接収支ベースでは公的支援なくして成立しないものの、広く社会的な観点で見れば十分に採算が取れるイベントと評価できます。
直接的な採算性について言えば、チケット・スポンサー収入だけで運営費を賄うことはできず、約80億円もの公費投入が不可欠でした。これは狭義には「自立採算が取れていない」ことを意味します。しかし、その公費投入を含めても大会組織委の帳簿上は赤字を出さずに運営できる見通しであり、財政的破綻や過大な追加負担の懸念は低い状況です 。むしろ、スポンサー営業改革やコスト管理の徹底によって予定以上の収入確保と費用抑制を実現し、当初計画より改善した形で大会を迎えられています 。組織委員会レベルでは黒字は出ないまでも、きわめて健全なバランスシートで大会を終えられるでしょう。
間接的・社会的な採算性に目を向ければ、投入した公的資金以上の経済的便益が確実にもたらされ、広義の「利益」は大きく上回ります。推計500億円の経済波及効果は、国全体・地域全体としてみれば投資に対する十分なリターンです 。さらにスポーツ振興や都市ブランド向上といった定量化困難なメリットも勘案すれば、東京世界陸上開催の意義は費用をはるかに凌駕すると言えます。とりわけ東京は五輪が無観客開催となった経緯もあるだけに、今大会で世界中の観客を迎えスポーツの感動を共有すること自体がレガシーとなります。これは金銭には代え難い価値であり、長期的視点で見た「採算」に含めるべき要素でしょう 。
リスク要因としては、万一チケット売上やスポンサー収入が計画未達だった場合、最終的に追加の公費負担が発生する可能性がありました。しかし幸いにも販売好調・協賛好調で推移しており 、現時点でそのリスクは小さく抑えられています。また大会後に施設維持費等が問題となるケースもありますが、国立競技場は既存施設で既に維持管理計画があり、大会特有の新たな負担は限定的です。むしろ大会を通じて得たノウハウや設備(ICTインフラ強化など)は今後のイベントにも活かせます。大会運営の透明化も日本のスポーツ界全体にとってプラスであり、不正リスク低減による信頼回復効果は計り知れません 。
総合的に判断して、東京世界陸上は「興行」として巨利を生むものではないものの、公共事業として見れば投下資本に対するリターンは極めて大きいと言えます。直接収支に間接効果を加えた社会全体の収支は明らかに黒字であり、採算性は十分に取れると結論づけられます。加えて、五輪の負の遺産を教訓に新たな運営モデルを示した点でも意義深く、東京発の改革がスポーツイベントの効率化・収益力向上につながる期待もあります 。東京2025世界陸上競技選手権大会は、適切な公的支援のもと健全に運営され、経済的・社会的便益をもたらす大会として成功を収める可能性が高いでしょう。
参考文献・出典: 東京2025世界陸上財団資料 、朝日新聞 、スポーツメディアライト(ブログ) 、nippon.com 、月刊陸上競技オンライン 、エキサイトニュース 、note記事 、関西経済連合会レポート など。
Google Gemini 2.5 Flash Deep Research
2025年世界陸上東京大会の採算性に関する分析報告書:直接的・間接的収支と「東京モデル」の評価
序論
本報告書は、2025年に東京で開催される世界陸上競技選手権大会の財政的持続可能性について、多角的な観点から分析したものである。大会の採算性を評価するにあたり、大会運営に直接関連する収益と費用に加えて、開催が都市経済やブランド価値にもたらす間接的な効果を包括的に考察する。また、東京五輪における汚職・談合事件の教訓を踏まえ、特定の広告代理店に依存しない新たな運営体制、通称「東京モデル」が、大会の採算性やガバナンスに与えた影響についても詳細に検証する。本分析は、公的資金の活用を正当化し、将来の大規模イベント開催における持続可能なモデルを構築するための基礎資料となることを目的としている。
第1章:直接的財政収支の分析 - 公費に依存する収益構造
1.1 収益構造の全体像と財政計画の変遷
2025年世界陸上東京大会の運営団体は、当初、大会経費および収入を合わせて150億円と計画していた。この当初計画における収入の内訳は、チケット収入30億円、協賛金・寄付金30億円、日本陸上競技連盟の負担金10億円、そして国と東京都からの支援金80億円(その他として分類)であった。この計画段階から、大会収入の半分以上を公的資金に依存する構造が明確であった。
- [東京2025世界陸上 財政計画について 一般財団法人東京2025世界陸上財団](https://www.sports-tokyo-info.metro.tokyo.lg.jp/eventblog/2023/12/data/bm_23122601_01.pdf)
- [25年東京世界陸上は150億円規模に スポンサーシップ契約は代理店介さず入札実施 \| 月陸Online|月刊陸上競技](https://www.rikujyokyogi.co.jp/archives/124678)
その後、大会の財政計画は更新され、収入・支出ともに総額174億円へと24億円増額された。この予算拡大は、民間からの収益向上によってのみ達成されている点が重要である。具体的には、当初30億円と設定されていたチケット収入の目標額は44億円へと14億円増加し、協賛金・寄付金は30億円から40億円へと10億円増加した。これにより、当初計画の段階で大会経費の不足分を補填するとされていた国・都からの公費支援額は、80億円から増額されることなく、大会予算が拡大されたと判断される。
- [東京世界陸上財団が財政計画を更新 収入・支出ともに174億円を計上 当初から24億円増 \| 月陸Online|月刊陸上競技](https://www.rikujyokyogi.co.jp/archives/180150)
以下の表は、当初計画と更新計画における財政構造の比較を体系的に整理したものである。
表1:2025年世界陸上東京大会 財政計画比較(当初計画 vs. 更新計画)
項目
当初計画(億円)
更新計画(億円)
増減額(億円)
【収入】
150
174
+24
チケット収入
30
44
+14
協賛金・寄付金
30
40
+10
日本陸連負担金
10
10
0
公費(国・都からの支援)
80
80
0
【支出】
150
174
+24
仮設設備等
30
―
―
輸送等
15
―
―
オペレーション
55
―
―
管理・広報等
45
―
―
予備費
5
―
―
(各支出項目の詳細な更新計画額は資料に記載なし)
この分析は、大会が直接的な意味で民間資金だけで「採算が取れる」構造には至っていないことを示唆している。総額174億円の支出に対し、民間からの直接収益(チケット収入、協賛金、日本陸連負担金)は94億円にとどまり、約80億円の不足分を公費が補填している。この事実は、大規模国際スポーツイベントの開催が、依然として公的部門の財政支援を前提としている現実を浮き彫りにしている。しかしながら、民間からの収益が当初の想定を上回り、公費の追加投入なしに予算規模を拡大できた点は、運営体制の有効性を示す重要な成果と評価できる。
1.2 費用構造の評価とコスト管理の効率性
大会の支出は、当初150億円の計画で、仮設設備、輸送、警備、競技関連、式典、人件費、管理・広報などに配分されていた。運営財団は、コスト抑制と効率化の観点から、輸送にシャトルバスや公共交通機関の活用を優先し、大会関係者の宿泊施設をエリアごとに集約するなどの対策を講じたとされている。また、物資調達においては、環境負荷とコストを考慮し、日本国内からの調達を優先する方針が示されている。
- [東京 2025 世界陸上競技選手権大会 開催基本計画](https://assets.aws.worldathletics.org/document/655c372740114dd7279cfd4c.pdf)
一方で、当初計画の150億円から174億円への費用増額は、これらの効率化努力と矛盾するように見えるかもしれない。この費用の増加は、民間からの収入増分(24億円)によって相殺されており、直接的な公費負担増には繋がっていないものの、その背景には複数の要因が存在すると考えられる。例えば、2026年アジア大会(愛知・名古屋)の事例では、当初の想定を大幅に上回る物価高騰が開催経費を押し上げる要因となったことが報告されている。同様に、世界陸上においても、資材や人件費の高騰が支出増の主要因である可能性がある。
さらに、特定の代理店を介さずに運営を直接担う「東京モデル」は、代理店に支払う手数料を削減する一方で、運営財団自身の内部工数や人件費を増加させる可能性がある。一般的な採用活動の事例が示すように、外部サービスに頼らない独自の人材確保や運営管理は、コスト削減効果がある一方で、内部的な時間と労力、すなわち人件費の増加を伴う。この内部コストの増加が、予算増額の一因である可能性も排除できない。したがって、費用増額は単なる物価高騰だけでなく、新たな運営モデルが内在するコスト構造の変化を反映している可能性がある。
第2章:間接的効果と長期的な価値の考察 - 採算性評価の多角化
2.1 経済波及効果の評価
大会の真の採算性を評価するには、直接的な収支だけでなく、より広範な間接的効果を考慮する必要がある。日本陸上競技連盟は、2025年世界陸上東京大会が約500億円の経済波及効果をもたらすと試算している。これは、2023年ブダペスト大会の経済効果が約600億円であったことを踏まえると、妥当な水準と見なすことができる。
- [2025年世界陸上競技選手権大会開催に係る 大会運営組織の設立準備会 中間の整理](https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202211/24_165733.pdf)
- [世界陸上が開幕、その経済効果は?インバウンド消費は期待できる? \| 訪日ラボ](https://honichi.com/news/2025/09/12/worldathletics2025/)
この経済波及効果は、チケット販売、宿泊、飲食、交通、お土産購入といった観客や大会関係者の直接消費だけでなく、大会運営に必要な物品調達やサービス提供による間接的な経済活動も含まれる。特に、スポーツ庁は、大会を通じて多くの外国人訪日客が期待されることから、スポーツホスピタリティやスポーツツーリズムの推進を通じて一人あたりの消費額を向上させる方針を示している。
直接的な収支だけを見れば、公費80億円は大会の赤字を補填するための支出に見えるかもしれない。しかし、経済波及効果という視点から見ると、この公費は、500億円規模の経済活動を誘発するための「初期投資」あるいは「呼び水」と解釈することができる。この場合、公費の投入は、直接的な投資収益率(ROI)ではなく、公共的な投資収益率を考慮すれば十分に正当化される。すなわち、直接的収支は赤字であっても、間接的な経済波及効果が公費負担額を大きく上回るため、社会全体としての「採算」は十分に取れると評価できる。
2.2 都市ブランド価値と社会的インパクト
大規模なスポーツイベントは、経済的な効果に加えて、金銭では測ることのできない非金銭的な価値を創出する。2025年世界陸上は、アスリートの活躍を通じて人々に感動や希望を与えるとともに、東京の国際的なプレゼンスを向上させる機会となる。こうしたイベントは、スポーツツーリズムの促進や地域ブランドの価値向上に寄与することが知られている。
さらに、スポーツイベントは、市民のスポーツ活動を促し、都市全体でスポーツを通じた価値創造の「成長サイクル」を駆動させる原動力となる。この観点から、世界陸上は単なる短期的なイベントではなく、東京が持続可能な「スポーツ都市」として発展するための重要な資産となりうる。
この文脈において、「東京モデル」は単なる運営手法の変更にとどまらない、より深い価値を持つ。東京五輪の汚職・談合事件は、イベントの価値そのものだけでなく、開催都市である東京、ひいては日本全体のガバナンスに対する信頼を大きく損なった。世界陸上で「公正・公平・透明」を前面に打ち出した運営は、失われた国民の信頼を回復し、国際社会に向けて日本のスポーツビジネスの健全性をアピールするための重要な「ブランディング戦略」として機能している。したがって、世界陸上の真の採算性は、短期的な経済効果だけでなく、透明性の高い運営という新たな価値を確立し、都市の長期的なブランド資産を再構築する機会として評価されるべきである。
第3章:「東京モデル」の試金石 - ガバナンスと運営の評価
3.1 「東京モデル」の誕生と原則
東京五輪・パラリンピックにおける汚職や談合事件は、特定の広告代理店、特に電通への過度な依存が、公正な競争や透明性を阻害する構造的な問題を引き起こしたことを露呈させた。電通は、テスト大会や本大会の運営業務を公正な競争入札なしに複数の企業に割り振っていたことが明らかになっている。
この反省から、2025年世界陸上東京大会では、特定の代理店に運営を丸投げする従来の慣行を脱し、大会運営組織である「東京2025世界陸上財団」が独自に業務を遂行する方針が確立された。この新しい運営体制は、スポンサーシップ販売において「公正・公平・透明」を掲げ、公募による入札を実施したことが特徴である。各協賛ランク(プリンシパルサポーター、サポーター、サプライヤー)には明確な基準額が設定され、契約の妥当性・公正性を確保するため、外部有識者を含む委員会が審査にあたった。
- [世界陸上で試される脱「電通依存」:五輪不正受けたスポーツビジネスの「東京モデル」は根付くのか \| nippon\.com](https://www.nippon.com/ja/in-depth/d01165/)
- [一般財団法人日本スポーツマンクラブ財団公式](https://sportsman-club.jp/html/blog/kaiho.html?id=3475465966425033536569715a556f6141704a4469673d3d)
- [一般財団法人東京2025世界陸上財団第6回理事会の開催結果について](https://assets.aws.worldathletics.org/document/658a8206c5079b170e888fa7.pdf)
3.2 「東京モデル」が収益・費用に与えた影響
「東京モデル」は、大会の直接的財政収支に具体的な影響をもたらした。代理店を介さずにスポンサーやチケットの販売を直接行うことは、中間マージンを削減する効果をもたらす。このアプローチが功を奏し、財団は当初目標を上回る協賛金とチケット収入を獲得し、民間収益の増加という形でその有効性を証明した。これは、代理店のノウハウに依存せずとも、透明性の高いプロセスを通じて市場からの評価を得られる可能性を示している。
しかし、この運営モデルには、独自の課題も存在する。代理店が通常担う高度な営業、広報、交渉業務、そしてリスク管理を、すべて財団の内部リソースで賄う必要が生じる。その結果、内部的な人件費や工数が増加する可能性があり、これが第1章で触れた費用増額の一因となっていることも考えられる。
この「東京モデル」を評価する上で、注意すべき重要な側面がある。資料によると、電通は世界陸上競技連盟(WA)との間で、2029年までの全世界における独占的なマーケティング権と放送権を保持している。これは、東京大会の運営財団が国内市場におけるスポンサーシップ販売を自律的に行った一方で、国際的な放送権やマーケティング権は依然として既存の権益構造の下にあることを意味している。したがって、「脱電通依存」は完全に達成されたわけではなく、国内市場のガバナンスと透明性を回復するための「部分的な改革」であったと解釈するのがより正確である。この限定的な改革が、愛知・名古屋でのアジア大会や東京デフリンピックなど、他の国内イベントにも同様の自律的運営モデルを促している事実は、その意義の大きさを物語っている。
- [電通、世界陸上を含む国際陸上競技連盟(IAAF)主催大会の2020年~2029年までの世界独占マーケティング権および放送権を取得 \- News(ニュース) \- 電通ウェブサイト](https://www.dentsu.co.jp/news/release/2014/0909-003818.html)
表2:「東京モデル」の評価:メリットとデメリット
項目
メリット
デメリット
財務
・代理店手数料の削減 8
・民間収益(チケット、協賛金)の当初目標を上回る獲得 4
・公費の追加投入なしに予算を拡大 3
・運営財団内部の人件費や工数の増加 8
・物価高騰などの外部要因によるコスト増 3
ガバナンス
・透明性と公正性の向上 5
・利害関係者による利益相反問題の防止 6
・大会運営組織が主導権を握るガバナンスの確立 15
・海外の複雑な権利関係との調整課題 5
・高度な専門性を持つ人材確保の難易度 8
長期価値
・失われた国民からの信頼回復 5
・将来のイベント開催における新たな運営モデルの提示 5
・国内市場に限定された改革であり、国際的な慣行との乖離
第4章:結論と提言 - 採算性評価の総括と今後の展望
4.1 総合的な採算性評価の総括
2025年世界陸上東京大会の財政的採算性は、評価の尺度によって結論が異なる。
- 直接的採算性: 大会は直接的な収益だけでは経費を賄うことができず、公費80億円の投入が不可欠な構造である。この観点からは、単体で「採算が取れた」とは言えない。
- 間接的採算性: 日本陸連が試算する500億円の経済波及効果や、都市ブランド価値の向上といった間接的利益を考慮すれば、公費の投入は十分な社会的リターンが見込める「先行投資」であると評価できる。
- 「東京モデル」の有効性: 財政面では、公費を増やすことなく民間からの収益を当初目標から上乗せできた点で、新たな運営モデルの有効性が証明された。ガバナンス面では、透明性と公正性を前面に出すことで、失われた信頼を回復し、将来のイベント運営の新たなモデルを示した。
4.2 将来の国際大会開催に向けた提言
今回の世界陸上は、東京五輪の教訓を活かした運営モデルの試金石となった。その成果と課題を踏まえ、将来の国際大会開催に向けて、以下の提言を行う。
- 公費投入の「説明責任」強化: 今後、公費を投入する大規模イベントにおいては、単なる直接的収支報告だけでなく、経済波及効果や都市ブランド価値といった非金銭的価値を定量・定性的に評価し、市民や関係者への詳細な事後報告書を作成することが必須となる。公費がもたらす総合的な公共的利益を明確に提示することで、社会的な合意形成を促進すべきである。
- ハイブリッド型ガバナンスの模索: 「東京モデル」が示したように、すべての業務を独自で行うのではなく、国内市場におけるスポンサーシップ販売や運営業務は財団が直接担当し、国際的な権利関係は既存のパートナーシップを維持するといった、効率的かつ透明性の高い「ハイブリッド型」の運営モデルを確立すべきである。これにより、自律性と専門性を両立させることが可能となる。
- レガシーの「可視化」と持続可能性: 国立競技場のような既存施設を最大限活用し、新規インフラ投資を抑制する方針は、将来のイベントにとって重要なモデルとなる。大会終了後もそのレガシー(施設、人材、運営ノウハウ)がどのように活用され、持続可能な価値を創出するかを具体的に計画し、実行することが、真の「採算性」を証明する鍵となる。